審査考

 合気道には審査がある。私は合気道を始めてわりと早い時期に審査を見学した。

 たとえ相手が木刀や短刀(木製)で切りかかってきたとしても、稽古を積んだ方の技はとても美しく、見ているほうもハラハラせずにとても静かな心境で見ていられる。いずれはこんな技ができるようになりたいと思い、それ以来審査の見学に行くようになった。 

 そして自分自身も審査を受けるようになり、審査の受身はたいてい同じ道場の先輩や、普段から一緒に稽古している人にあらかじめお願いして受けるものだと思っていた。

 

 そんな考えが見事に打ち砕かれたきっかけは初段の審査を受けた時だった。この日私は、美しくゆったりとした技をかけたいと思っていた。

 神前に礼、先生に礼、お互いに礼。振り向くと、その時の受身は全然知らない、ばりっとした有段者の若い男性だった。

 菅沼先生が審査の受けに出る人に常々言われていたことは、「打つときは打ち、技にかかったら素直に受身をとる。」この日、受身に出て頂いた方もその教えを忠実に守る方だった。

 「(座り技)横面打ち第一教表!」

 先生の号令とともに、相手が素早く力強く手刀で私の側頭部を打ってきて、ばっちり面を食らってしまった。「あ、出遅れた。」思わず照れ笑い。次はタイミングを外さなければ大丈夫だと思った。      気を取り直して、次は一教で相手の腕を抑えようとしたが相手は簡単には抑えられてくれなかった。

 「げっ、この人技にかかってくれないつもり?」もはや笑える場面ではない。相手は自分より経験を積んだ有段者の男性。頭によぎった「不合格」。なんとかして、この人を相手に指定された技を成立させなくてはならない。

 「最初に負けたら終わりだ。」と感じ、出だしで相手の面に軽く当身を入れ、力づくで腕抑えに行った。

 立ち技の入り身投げでは、ある日の稽古で菅沼先生が「相手にぶつかっていけ。」と言われたのを思い出し、投げるときは全力で相手に体当たりした。もはや美しく技を掛けるなんて段じゃない!その時の私はとにかく相手をブン投げて威嚇することしか考えてなかった。

 

 その後、座り技の入り身投げでも相手を無駄にブン投げようとしたが、実際にやってみると拍子抜けするくらい力はいらず、円い動きの中で相手はコロリンと転がっていった。 

 その時、「あ、合気道って無駄に相手を痛めつけるようにはできてないんだな。」と少し冷静になり、それから相手のことを考えて投げられるようになった。

 

  審査直後は、うまくいかなくて人を力づくで投げようとしていた自分が恥ずかしく落ち込んでしまったが、その時の審査員のT先生が(「而今」にも登場)「当身を食らってそれから本気になって必死になってやっているのを見て感銘を受けました。」と言ってくださってそれがとても救いになった。

 

 今審査について思い出す菅沼先生の言葉「審査も演武会も普段以上のことはできない。試合は稽古のように。稽古は試合のように。」

そして、都城合気道錬成会に所属して出会った野中先生や黒木先生が教えてくださった思想「不遅」「前に出る。」

 

 これからも審査などで万が一うまくいかないなどの状況に遭遇したときに、負けない気力を持ち続けられるように普段の稽古を大切にしていきたい。

 

都城合気道錬成会 都島道場小林教室担当 伊達